2013年10月15日

物語としてのAC-6

「何聞いてているの?」
「ストリートスライダース」
「何それ?」
「かっこいいよ」
ぼくはサディに片方のイヤホンをあずけた。彼女はしばらくイヤホンを疑わしげに見つめてから左耳に入れた。
昼過ぎまでぼくのアパートで寝てセックスをした。同情のような味がした。サディはしばらくぼくの胸に唇をつけたままで目を閉じていた。
そのあとぎゃあぎゃあとお互いの平日さぼりの罪悪感をせめあってデニーズでコーヒーを飲んだ。
夕方,シブヤに向かう電車はすいていて、正面に座っている6人中5人がケイタイの画面を見ていた。
サディがイヤホンをはずして言った。
「なんかうるさくて怒ってて。さみしい詩だわ」
「飲みたくなるだろ?」
ぼくはうるさくしたくて怒りたくてさみしかった。どうしたらこの気分を消化できるのか全然わからなくて,サディに知られないように唇を強く噛んだ。流れる風景にはオレンジの夕日がのびていた。あの家々にはそれぞれ男と女がいてセックスしているのだろうか。まともな大人は平日の夕方はしていないかもしれないなと思った。

駅を降りて,ネオンの点き始めたシブヤの無数の人を眺めるとなんだか少し楽になった。駅に急ぐ人通りと逆に歩くのは誰とも違うような気がした。下水と排気ガスのにおいにまじって、サクラのにおいがしたような気がしたがそれは。どこかの女子のにおいだった。
左の少し後ろを歩くサディを振り返ると,彼女の茶色の目は何も見てなかった。大型モニターにも大音響の音楽にも何にも関心がない目は群集をさけるために何かどこかを見つめていた。同伴出勤を避けるために無言で少しずれてスポーツクラブのカウンターでチェックインした。

オープンスタジオを通るときに、女子のいりまじったにおいをかいだ。白い照明の下で女子のすけた体に囲まれて爆音のダンスクラスでびしょびしょに汗をかけばとにかく何か忘れて気持ち良く虚勢された気分になるのにうずきを感じてロッカールームに急いだ。90分女子に囲まれて汗を流し、ジャグジーで色とりどりの水着を見て満足すると,信じられないくらい気持ちの良いシャワーを浴びた。

すっかり暗くなってネオンの映える通りを、大舞台のステージを終えた気分で歩き地下の居酒屋で生ビールを飲む頃にはもう怒りたくもさみしくもなかった。でも、その振り子はアルコールがひとだんらくするとやがて戻ってくることは知っていた。
posted by usaikuo at 09:58| 日記