2014年01月11日

物語としてのAC-11

サラリーマンの時、仕事が遅くて午後8時30分を回っても机にへばりついている隣の課の女子を思いだした。
同僚が手伝いを申し出ても。大丈夫大丈夫を繰り返していた。(顔はおもいだせないが机に突っ伏している痩せた肩を思い出した。

ーー

窓をむいたまま何も話さないサディにバイバイも言わないで、こどものような気分で病室を出た。なつかしような泣きたくなるような病院臭にまとわりつかれていた。こんな時に、打ち合わせするから来いという元上司、いまは発注元からの留守電があれば、いくところとやることがとりあえずあって救われるが、「おあずかりしているメッセージはありません」。

やりかけの企画書だかなんだかはあるが、お決まりの予定調和的な文脈にうんざりしていて、いまそっちの気分じゃなくそんなもの書けない。サーバーのスペックが上がって、仕事が早くなるだと?だからなんなんだ。

大きめの本屋に入って、ビジネス新刊コーナーを見て、ライフスタイル雑誌コーナーを見て、人生やらなにやらのコーナーを見て、いつもと同じ本があるのを確認するのを小一時間使って安心して、ジムに向かった。

ーー


シブヤで汗を流したあとまっすぐ電車に乗って地元に戻ってきたが,落ち着かずゲンを呼び出した。

「おまえその女やばくねえか?」
「ショーや」でゲンが言った。

「どっか具合悪いんだと思う」ぼくはゲンのコップにビールを注いで言った。

平日のショーや7時はがらがらで店員は手持ち無沙汰でテーブルの上のメニューの角を整えたり,灰皿の位置を治したりしていた。まだ客がいないが準備ができているという店内の雰囲気が気に入っていた。

「普通,なんか言うだろうそんなことがあったんなら」
「難病とかだったりして」

「電話とかメールとかないのか?」
「たぶん、病院で携帯繋がらないんだ」

ゲンは眉をしかめている。

「子どもがいるみたいなんだ」
「え?」ゲンがこんどは口をあけたまま言った。

ぼくは自分のコップにビールを注いでゲンの視線をごまかした。琥珀の液体は冷たくのどに気持ち良かった。

「子ども?」

救急車に載せられて血液型と誕生日を聞かれたけどわかんなくて,ジムバックを開けたんだ。母子手帳があった。

ゲンはホッケにマヨネーズを付けている。
「ということはだんなもいるんじゃねえのか?」

「わかんないけど,そうだろう」

「おまえ、はめらたんじゃないか?」

ゲンはあーあといういちれんの動作をしてばかだねぇと言った。

「救急車なんかのっちゃって、だんなにぼくのこととかばれてもめてんのかな?」

「だっておまえ知らなかったんだろ?」
ぼくは小さくうなずいた。

「じゃあなんも関係ないだろ」
ゲンはなんだよかったよかったとあごを突き出してなんどがうなづくとビールのおかわりと川えびのから揚げを店員に頼んだ。

ぼくは,彼女の寂しそうな顔とか,時々,激しく感情をぼくにぶつけてくる時があるとは言わなかった。彼女がぼくと寝たがったんだと。

ぼくは彼女のことを何も知らなかった。どこで生まれたとか,どんな少女時代だったか。ぼくはセックスをすることで彼女を助けたいと思っていたのかも知れない。
でもおまえはいったい彼女を何から助けるのだ。

ぼくはこっちをゲンにいうべきなんじゃないか。
ゲンは言ってくれるだろう。

おまえさあ、ただやりたかったんだろう?
よかったじゃん。

ゲンにそう言われたかった。
posted by usaikuo at 11:49| Comment(0) | 日記

2014年01月10日

物語としてのAC-10

コピーライブの後のやり切れなさを認めあえないで、酔ってごまかして、
そのうちごまかしきれなくなって、
ばかばかしいことで言い合いをはじめてとまらず、胸ぐらを掴んで、テーブルのコップをひっくり返して、となりの席のおっさんに、おーやれやれとけしかけられ、おしあってそのうちに吐いて、ぐちゃぐちゃな夜になる前に、
シブヤにむかった。

サディはまだジムにいた。

遅れたぼくの顔もみずに、バックを肩にかけると歩き出した。

ーー

酎ハイ3杯目の走り出しのアルコールの霧の中で自分の名前を呼ぶ声が響いた。
それはなつかしい感じがした。僕の名前なのか?

見知らぬ女性がぼくの名前を呼んでいるのに気がつくのにしばらくかかった。
ぼくが振り向いて彼女と目を合わせると混みあった居酒屋のテーブルの間を器用に走って近づいてきた。
「あの、お連さんが、トイレで、あの、たおれてます・・・」

救急車を降りて半分だけ明かりの点いた待合室にいた。いま眠りましたから病室に移しますのでと当直の看護士に言われて始発でアパートに帰った。ぐだぐだに混乱して酔もさめずふらついたままシャワーを浴びて、
ぼくは部屋においてあった彼女のナイキのジムバックを持って、病院にもどった。
清潔な朝と通勤の人々に、心底腹がたった。

朝食のトレイが下げられても大部屋にはスープの残り香と、宿命的な排泄物のにおいが入り混じっていた。時折,カーテンの向こうからのゲホケホという渇いた音が聞こえた。この臭いと共にぶよぶよと漂い,点滴のチューブの中を通って血液に混じり排泄され流されたら楽だなと思った。
サディの白い左腕に繋がれたチューブはスタンドにかけられたビニールの液体をぽたぽたと通している。サディは窓の外を見てこちらを見ていない。階下では外来へ行き交う人々が小さく見える。初夏のまじりけのない鋭角な光が白い布団に刺している。
たとえそれが病院であっても何かを終えて帰る場所があるというのはうらやましく思えた。

彼女は昨晩シブヤにいたままだった。赤のサマーニットにジーパンをはいたままベットに横になって窓を見ていた。

「着替えろよ」

彼女はジムバックから白いTシャツと黒のスエットを引っ張り出すと布団の中でごそごそ着替えた。点滴のチューブをいったんはずすのに看護士を呼んだ。

サディはゴムで髪をうしろにしばるとはじめてぼくを見て
「ありがと」と小さな声で言った。

そして肩まで布団をかけて横になるとまた窓を向いた。

サディはスタイルがよかったし,週に5日ワークアウトしているにしても病院の布団にくるんでしまうとそれはなんの意味もないことのように思えた。




posted by usaikuo at 11:57| Comment(0) | 日記